2013年11月2日

鴻の里 #013 家系




 あてがわれた奥座敷に入ると、ご先祖を描いた床の間の掛け物がまず目に飛び込んできた。その姿に見習い居住まいをただす。声に出さずともひと言ばかりごあいさつ。鴻家十二代の主だ。当主豊彦さんの四代前の方になる。農事造林ともに勤勉で殖産の功があったと添えられている。代々伝わる家系などどこか遠い世界の話に感じていたが、こうして残されているご先祖の姿を目にすると、だれにも家系というものが確かにあるのだと思いいたる。今というこの見えるばかりの状況に目を奪われているわけには行かない。たとえば鴻さんたちは家屋敷や田畑ばかりでなく、同じ系統の血を受け継いでいる。これまで血統のことなど考えたこともなかったが、顔や姿形、性格、あるいは人間というものに対する思いや生き方などまでが、なんらかの脈絡をもって引き継がれているのかも知れない。むしろそう思う方が、この土地に滞在している間のことだけだとしても、母屋のさりげない空間から不思議な魅力が立ち上り、思わず身が引き締まるのを覚えた。見守られているのだろうか、それとも見抜かれているのか、人としての今。


















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