里山の夜。イノシシ対策のために鴻さんたちは夜中でも交替で爆竹を打ち鳴ら
すようになった。始めて以来、田んぼに侵入する気配はなくなっているようだ。
どんなに疲れて眠っていても、鋭い爆発音でいつも目が覚めた。ほとんどすぐに
また寝入ってしまうのだが、その夜は外へ出る気になった。街灯のない里の暗闇。
目が慣れるまでにかなり時間がかかる。山で使っているヘッドライでは明るすぎ
てせっかくの闇が台無しになるだろう。思いついてスマホのアプリにあるライト
で足下を照らすと、割と具合がよかった。なんと美しい星空。湿気のせいか曇っ
たレンズが柔らかに焦点をぼかした。里山の夜はまるでお伽の国に迷い込んだ気
分にさせてくれる。付近を彷徨っているだろう獣たちにこの星は見えているだろ
うか。静寂の中では感じているものを言葉に置き換えないでおこう。ただ眺めて
いればいい。撮ることと立ち尽くすことで半分ずつにした。夜空に瞬くものはい
つの時代の光なんだろうか。あのとき感じていたものと、宇宙の遥かかなたから
降ってきているものとになにやら関係がありそうな、里山の夜は不思議な気分に
させてくれた。
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