2013年10月24日

鴻の里 #010 一日を終える





 一日の仕事を終える。同じように日々を過ごしてきたはずなのに、この頃一日
を終えるという感覚をあまり感じなくなっている。精一杯、可能なかぎりを尽く
して生きていないからだろうか、もう決して若くはない世代に入り日常に慣れ切
ってしまったんだろうか、などと時折思いをめぐらした。だがなんと言うことも
なかった。どうやら自然のリズムを感じない生活に陥っていたようだ。朝の光を
感じて目覚め、暮れ行く空を見上げてほっと一息をつく。その間の明るい時間に
風に吹かれ、雨に打たれ、あるいは陽を浴びて大地に立つ。あまりに自然でつい
やり過ごしてしまう身近な現象との関わりからしか感じられない生の実感という
ものがあるのだろう。暗くなるまで飛び回り、恐る恐る開けた長屋のドアの内側
に鬼の顔をしたおふくろが立っていた、あの子どもの日々が今、急に蘇ってきた。
生きながら自らに背負わせてしまうものこそそれぞれの人としての重みにもなる
のだろうが、その重荷を一つ二つと足下に下ろしてみる夕暮れ時を境にして、静
かな闇の世界に入って行く。闇に佇み、どこか安堵した、眠りにつく暗い時間に
もまた生がある。老いてなお生き生きと内に宿る懐かしい子よ、お前はいま何処
にやある。闇でこそ、一日をしかと終えてこそ、感じられるものがある。










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