2013年11月5日

鴻の里 #015 鴻式自然農





 自然農という農法がある。川口由一さんというお百姓が提唱実践している。鴻
さんたちも奈良にある川口さんの塾に出かけ学んできたそうだ。まだお会いした
ことはないが、ひとときでも鴻の里で過ごすからにはとこの初心者も川口さんの
本を取り寄せていくらか読んでいる。その川口さんには「自然農という決まった
一つの方法があるわけじゃない。それぞれのやり方を見つけていけばいい」とい
うような印象深いひと言がある。参考にしようとわざわざ読んでいるのに、すっ
かり真似をするなと言っている。環境に合わせたそれぞれの最前を模索しろとい
うことだろう。なかなかに骨の折れる仕事だが、まさに試行錯誤の実践あるのみ
実に心地いいアドバイスだ。鴻さんたちは今年十枚の田んぼで米を作った。面白
いのは、そのどれもが少しずつちがう表情をしていることだ。慣行農法然として
割とすっきり整っている一枚があれば、草原か荒れ地と見間違えるほど暴れん坊
の田んぼもある。すべて耕されていない。言うなれば、ぶっきらぼうに植えられ
た。たとえばもっともユニークだと感じる田んぼは棚田の最下段にあり、一面を
覆っていたススキを苅り払ったあと、内に格子状に溝をめぐらし、田植えは棒切
れで空けた穴に苗をはめ込むという感じだった。手伝いながら、これが本当に実
るんだろうかと秋の姿が楽しみだった。掲載の写真が、その田んぼの一画。繁茂
するミゾソバと稲穂が絡み合い、競い合って成長した痕跡が残っていた。さらに
イノシシが侵入した形跡まであり、なんともはや、鴻式自然農の前途は多難なが
らすこぶる逞しい。豊彦さんは言う、「この美しい棚田の風景を蘇らせたい」。
その取り組みがいよいよ形になって見えてきた。












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